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僕がホルンを買った理由(1)〔堀 真典/1994.11.19〕

〜あれは、九月末の嵐の前の日だった。
 つい、ふらふらとホルンを買ってしまったのは。〜

 とりあえず、長い言い訳から始める。もちろん、僕のかわいい、かわいい、ヤマハのトランペット君にである。

 大学四回生の頃である。夏の演奏会で僕はトランペット吹きを終了した。最後の冬の演奏会はメイン曲の棒振りのみ、というローテーションに落ち着いたからである。従って、それからのパート練習は、とりあえずやらなあかん曲がない。暇である。そこで、浦野君がちょこちょこやっていた練習曲を僕もやってみよっかなーと思い、始めることにした。

 その練習曲とは、トランペット吹きの座右の銘ともいうべきアーバン金管教本(これが全部吹けたら、音大くらい何のその、という話もある)の中にある「十四の特別な練習曲」というものであった。これは「耐久力のテストのための適当な材料を確保する、という特別な目的で書かれたもので…」といった具合に大見得を切るにふさわしく、すっごく難しく、すっごくしんどい。全然前に進まない。まずは指回しを練習して、とりあえず指はまわる、と思ったら、があーっとやってしまう。なんとか三カ月程かかって、とりあえずやり通した。へー俺もえらいやんけ。うまいやんけ。

 昨年このアンサンブルを始めることになり「なんかせなあかんなー」と思っていた僕は、十二月末に前述「アーバン」を買ってきて(何をかくそう、それまで持ってなかったのだ)今度は「フレージングの技法」というのをやり始めた。

 これはクラシック、ポピュラーなどの有名な曲のメロディーを百五十曲集めたものである。最初のほうは初見で五曲や十曲は軽く吹ける。しかし、前に進むにつれ、だんだん難しさを増し、どんどんばてていく。曲の量も最初は一曲で二段だったのが、最後は二十段近くになっていく。しまいには一日練習して一曲が精一杯になってしまう。それ以上進もう、という気が消え失せてしまうのである。

 そうのこうのいいながらも、九月末にはとりあえず百五十曲全て終了。ほっとした気持ちと同時に、ずっと感じていたホルンへの想いが、ふっと心をかすめたのであった。

 いつ頃からだろうか?ずっとモーツァルト四十番をトランペットで吹いていて、ホルンだったらもっと感じ出るんやろなーと思い始めたのは。ホルン欲しいけど金無いから絶対無理やなー。三万円くらいで誰か売ってくれへんかなー。どっかに売ってないかなー(むろん三万円では、いくらなんでも誰も売ってくれない)。そしてまさにそんな時、たまたま僕は心斎橋ヤマハの楽器売り場を訪れることになる。それはもしかすると「たまたま」なのではなく、必然的だったのかもしれない。そこで僕が目にしたものは、僕に手が届かないでもない値札のついた中古ホルンであった。その瞬間から僕は二十四時間ほど悩むことになる。

 基本的には僕はいらちな方で、物事についてあまり悩むことはない。結局、今考えてみれば今回だって、そう悩んだとはいえないような気もする。しかし、その時には本当に久方振りに、真剣に悩んでいたように思うのだ。十三万円!ヨーロッパ往復、バイト1カ月、新品のラッパの半額、北海道二往復、一カ月の生活費……。いろんなことが頭の中をかけ巡る。新品のホルンは大体三十五万円〜ぐらいである。いくらなんでもそこまでは、どこをたたいても出てけーへん。でも十三万円である。何とかならんこともない。どっかたたいたら出てきそうである。憎い価格設定である。引き続き悩む。うーんうーん。中古やからあっという間に買い手がつくかもしれん。うーんどうしよう。すっごく欲しいなー。ホルンおもろいしなー。かっこええしなー。もちろんトランペットもおもろいし、かっこええ。そうでない目に数回あったことはあるが、それはホルンでも同じだろう。結局その夜は、悩み疲れて(うそ)寝てしまった。

 次の日、とりあえず吹いてみることにした。ということは「よっぽどひどくなかったらこうてまうなー」ということである。後はみなさんご存じの通りである。(つづく)

(アンサンブル通信 1994.11.19/第40号より)

>> 僕がホルンを買った理由(2)

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