[名曲探訪] ブラームス/交響曲第二番〔大石 聡/1995.06.17〕
大学のオケといえばブラームス。もちろんベートーヴェンも中心レパートリーだけれども、でもやっぱり、ブラームスである。どうしてか、といわれても困るのだが、大学生はブラームスが好きなんである。定期演奏会にブラームスが演奏されないシーズンなんて、考えられない。ベートーヴェンの交響曲は9曲あるが、ブラームスは4曲だけだ。それを考慮に入れたら、一曲あたりの演奏頻度はブラームスのほうが絶対高い。演奏会のプログラムを決める選曲会議でも、勿論ブラームス君は常連だ。二つ三つが同時にあがってるなんてことさえある。僕が市大のオケを卒業するときの最後の選曲会議にも、当然のようにブラームスはいた。しかも、決勝戦まで勝ち残ったのである。その時のブラームス君の選手交響曲が、この第二番だった。決勝の相手はベートーヴェンの第三番交響曲「エロイカ」である。
最初はブラームス君、かなり有利だった。「どっちの曲がお好きですか?」という、僕が選挙の事前に密かに行ったインタビューでは、絶対ベートーヴェンを引き離していたと思う。最後の演奏会と言うこともあって、「最後くらいは好きな曲で」という我儘がそのまま選挙結果に反映するはずだ、と僕は楽観していた。僕は断然ブラームスを押していたのである。ま、ブラ2が好きだ、ということも勿論あったが、本音のところ、エロイカのオーボエ・ソロだけは御免被りたい、と思っていたんである。別に目立ちたいわけでもなんでもなく、ただ「リコーダーに似た形の楽器のほうがいいな」という理由でオケに迷い込んできただけの、全くの初心者奏者の僕は「本番さえなければ、オケもいいサークルなのになあ」と本気で考えるような小心者であったので、エロイカの第二楽章の葬送行進曲の、あの目立ちまくりのソロを思い出しただけで「これはいかん!けしからん!」などと興奮したりしていたのである。大体ま、ベートーヴェンの交響曲って大体そうだけど、エロイカのオーボエは「吹かされまくり」なんである。休めない。プロの奏者のように「自然に、力を抜いて、もちろん目立たない様に手も抜いて、軽く楽器を吹く」なんて芸当は出来ませんからね、僕らにゃあ。バテちゃいます。それにエロイカは長い!しかも、疲れもピークに達した第四楽章の後半、まさに最後の最後ってところまで来て、すっごく良く目立つ(長ーいフェルマータでオケが止まった直後に、シーンとしたとこで吹かにゃならん奴です。聴いてみてください)ソロがあるんである。嫌な事するねぇ、ベートーヴェンって奴は。
ま、そんなこんなで、選曲会議なるものでは「エロイカはいかん。あれは良くない。絶対ブラ2にすべきである。ま、ブラ2でなくても良いが、とにかくエロイカ以外のモノにすべきである。」と力説していたのだが、大学オケの選曲会議ってのは奇妙なもんである。みんなあんなに「ブラ2が好き」とかいっといて、いざ会議では「ベートーヴェンはウチのパートにとっては凄く練習になると思う」とか、「こういう曲をやるのは、今のウチのオケのレベルアップには絶対いいと思う」とか妙な理屈をつけるんである。「だって、ウチのパートはブラ2のほうが指が易しいから。」とか、ちゃんとわかる言葉で話してくれたらいいのに、皆そういう分かり易い言葉は使わない。たまに僕なんかが「でも、自信ないんだよね、ソロが」とか本音を言ってしまうと、みんな同情したような笑みを浮かべてはくれるんだけど、「そんなことないよぉ、頑張ればできるって。信じてるよ。」とか、心にもないことをいうんである。
結局、決勝まで来ながら、ブラ2はエロイカに勝てなかった。でも、こうしてあの奇妙な選曲会議の様子を思い出すと、なんでブラームスがあれほどまでに大学生ってモノに支持されるのか何か分かるような気がするね、僕には。ブラームスってのは、なんていうのか、屈折してて、やけに形式にこだわっているようでいてその実、曲が訴えているものはちっともスキッとしてなくて、ロマン派的、というか湿っぽいっていうか。「好き」って言われてながら、肝心のところでベートーヴェンに勝てないんだね、これが。そういう部分が、大学生の「若い屈折」みたいな部分に訴えるのかもしれんね。
僕自身はそれ程ブラームスは好まない。ブラ1なんか「あー暑苦しい」って感じだし、ブラ4もしみじみとグチを聞かされるようで、なんだかいやだ。ブラ3はあの第三楽章の「さ、お泣きなさい」とハンカチを差し出されんばかりのチェロの旋律を除けば、割と秋っぽい匂いがして嫌いじゃないが、それ程聴かない。でも、このブラ2だけは例外だ。20年も苦しんで書いたとかいう一番の直後に、避暑地でサラサラ書いた曲らしいから、意外なくらい「むっつり」してないからかも知れない。僕は初めて聴いたときに「うん、こりゃいいね」とか思って、その頃丁度「演奏の聴き比べ」の面白さにはまりつつあった頃だったもんだから、このブラ2を基準曲にすることに決めて、さんざん演奏を聴き漁ったもんである。それだけ聴き込んでも飽きのこない、ほの明るい光に満ちた、優しいいい曲だと思う。「ブラームスの田園交響曲」と呼ばれたりするのは、ベートーヴェンには失礼かも知れないが、わからないこともない例えだと思う。
CDの演奏では、さっき散々聴き比べたと書いたが(買って聴いたものだけでも20種類くらいはあったと思う)、まぁ人気のある曲だけあって、いい演奏も多かったように思う。「一番良かったのは?」と訊かれると困るのだが、ブルーノ・ワルターはこの曲と相性が良い様子で、何種類か聴いたもの全部がいい演奏だった。ニューヨーク・フィルを振ったのが一番形としては優れているが、ニュアンスが豊かなのはフランス国立管弦楽団を振ったライヴ盤の方だと思う。この前「行って来ました演奏会」でブラームス・チクルスを紹介した朝比奈/大フィルのコンビのCDも素晴らしく大柄な演奏で、トップに挙げていい演奏だ。終楽章のコーダ直前の大見得が何とも言えない味わいである。ごく個人的には、録音はあまり良くなかったが、カール・シューリヒトがウィーン・フィルを振った演奏が、地味ながら何ともいえない味わい深い演奏で、一番好きだ。
(アンサンブル通信 1995.06.17/第64号より)
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