[名曲探訪] シューベルト/交響曲第五番 変ロ長調〔大石 聡/1995.01.21〕
この曲と言えば僕が思い出すのは、天才ピアニスト、グレン・グールドの残した『オン・ザ・レコード/オフ・ザ・レコード』という映像ドキュメントの中のワン・シーンだ。友人の現代作曲家と自分の別荘でくつろいだ会話をしているシーンなのだが、その友人がシェーンベルグの作品を評して「あれはある種、内気なところのある音楽だね」とグールドに語りかける。するとグールドは「いや、そうじゃない」と首を横に振り、やおらピアノに向かって「内気な音楽ってのはこういう音楽さ」と、このシューベルトの交響曲第五番の冒頭部をピアノで演奏するのである。
内気な音楽、それはシューベルトの音楽に実にピッタリ来る表現だと思う。五番交響曲は全体に穏やかで、柔らかな春の風景を思わせるような曲想である。その切れ目の無い、繰り返し寄せては帰す波のようなうねりの中で、シューベルトは実に不思議な転調の陰りを見せる。そのふわりとした陽炎のようなはかなさがシューベルトの魅力ではないだろうか。音色の屈折の仕方がなんとも「内気」なのである。
譜面は単調に見えるのだが、シューベルトらしく演奏するのは結構至難の業だろう。挑戦しがいのある名曲だと思うのだがどうだろう?わがアンサンブルの音楽監督・小西収には非常に相性の良い曲だ、と僕は個人的には思っている。レコードはブルーノ・ワルター/コロンビア交響楽団の演奏がずば抜けている。上品な威厳に満ち、それでいて角ばったところの無い、豊かで優美な演奏だ。熟練した味わいがあるのに、ちっともじじむさくなく、若々しいきらめきを喪っていない。何回聴いてもその余りの見事さにため息が出てしまう。指揮者と曲の実に幸せな出会い。素晴らしい。
(アンサンブル通信 1995.01.21/第46号より)
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